誰にもきっと
失いたくないものがあって──
今や超国民的アイドルグループとなった『乃木坂46』のかなり初期の曲です。当時の乃木坂46は結成から日が浅くなかなか難しい立場にありましたが、その分商業音楽としての力みやプレッシャーがあまり無かったため、比較的シンプルで自由な音楽性を持っていたとも言えます。
①”君の白いシャツとグレイのスカートが”
いきなりニッチなことになってしまうんですが、「グレー」ではなくて「グレイ」なことにちょっとしたお洒落心を感じられて素敵だなと思います。どれほど意図して「グレイ」を選んだのかはわかりませんが、これくらい細部にもこだわりや信念を持って何かと向き合いたいと感じます。
②”雲が少しだけ…
…素敵な笑顔で…”
歌詞とメロディーが美しく重なる素敵なBメロです。1番の同じ部分と比べて文字数が増えていて結構早口になっているんですが、それがまた良い趣を生み出しています。また、一連の表現には心理的な描写が含まれていませんが、言わずとも主人公の胸の中にある大切なものを感じることができます。
③”斜めに見える
あの青空が”
この「蛇口の水を飲む姿勢から見える斜めの青空」が、主人公にとって、そしてこの曲にとっても大きな支えになっているようです。よく考えれば、この景色ってほとんど学生の頃しか経験し得ないものですね。そんな刹那的な青春のワンカットをスタート地点にして、そこから視覚の情報と心理の情報を巧みなバランスでミックスさせていく技術は、やはり天下の秋元康だと思います。
この世には様々な音楽がありますが、アイドルにしか歌えないことってあるはずです。純粋すぎたり真っ直ぐすぎたりする歌詞でも、アイドルが歌えばそのアプローチを成立させることができるでしょう。そして、グループとしての複雑な事情やパーソナリティを抱えながら歌う姿には一瞬の圧倒的な輝きが宿り、楽曲を彩ります。この曲も、そんな歌い手の美しさと儚さが綺麗に溶け込んでいて、より一層素晴らしい仕上がりになっていると感じます。
『失いたくないから / 乃木坂46』
作詞:秋元康
作曲:蛯原ランス
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